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「シフォンケーキを作りながら」(3)-5

第一話から読む


 下らないやり取りをしている間にも、アオヤマはメレンゲをもう一つのボウルに移していく。確か、小麦粉と卵黄と……その他もろもろを混ぜ合わせてあるボウルだ。そこにメレンゲを三分の一くらい入れて、軽く混ぜる。また三分の一入れて、今度はゴムべらでさくさく混ぜる。残ったメレンゲを全部入れてまた混ぜる。
「これで生地は完成、と」
 棚から出した、ドーナツみたいな形をしたシフォン型に生地を流し込み、何度か台に打ち付ける。私は胸一杯に期待を詰めてただ見てるだけ。わくわくしながら見てるだけ。なんてお得なんだ、わくわくして見ているだけでシフォンケーキが食べられるなんて。
ついにシフォンがオーブンに入る。アオヤマはいつの間にか余熱を完了していたみたいだ。オーブンの戸を閉めて、何度かボタンを押す。
「よし。あとは三十分待つだけだ」
「おおー」
 まだ出来上がってないのに歓声をあげてしまう。まあしょうがないじゃないか。あと三十分で、愛しのシフォンケーキに会えるのさ。オーブンの中ではシフォンケーキが光を浴びている。じっと見つめていても、特に変化はない。
「三十分間そうしてるつもりか?」
「んー」
 それでもいいかな、なんて思ってしまう。全く動かないシフォンケーキを三十分、はちょっときついかな。でもこの溢れんばかりの愛があれば三十分くらい!
「それ、俺もここで見てろってことか?」
 あ、うっかりしていた。私が三十分間耐えられてもアオヤマが耐えられるはずがない。
「どうしよっか?」
 アオヤマは少し考える素振りを見せる。さっきもしてたけど、顎に手を当てる姿は本当に美佐子さんにそっくりだ。
「俺の部屋で漫画でも読んでくか?」
「読む!」
 即座に答える。アオヤマは昔から漫画をたくさん持っていて、それを読ませてもらうのが昔は私の日課だった。
「お前まだ漫画好きなのかよ」
「アオヤマだってまだ持ってんでしょ? お互い様じゃん」
 笑い合いながら階段を上ると、すぐ右にアオヤマの部屋があった。私より大きい本棚にぎっしり本が詰まっている。一番下の段には二列に本が並んでいた。私の記憶より本が増えているみたいだ。
「読んでいい?」
「ああ。好きなの読めよ」
 アオヤマは上の方から一冊取り、椅子に座って読み始めた。私もとりあえず目の前にあった本を手に取る。確か秋からアニメが始まるやつだ。推理ものだけど、私は推理をして楽しむことはせず、追い詰められた犯人の奇怪な行動とか、探偵と助手の掛け合いとかを楽しんでいる。
 勝手にベッドに座って読み始める。アオヤマは何も言わなかったし、昔アオヤマの漫画を読ませてもらっていた時もベッドは私の定位置だった。
「これ、今度アニメ化するんだよね?」
「ああ、確か十月からな」
「アオヤマ見る?」
「暇だったらな。夏希は?」
「んー、覚えてたら」
 他愛ない話をしながらページをめくる。昔からこんな感じだったな、と思い出す。昔は半分くらい漫画目当てで、もう半分はアオヤマと何でもない話をするためにアオヤマを訪ねていた。他に女の子の友達だっていたのに、何故毎日のようにアオヤマに引っ付いていたんだろう。あの頃のアオヤマは今よりずっと馬鹿だったし口が悪かったし、私もよく口喧嘩していたと思う。
 あの悪ガキが頼れるお兄さんになったのは、きっとお父さんが亡くなったことも理由の一つなのだろう。
 そんなことを考えていると、一冊目を読み終わったアオヤマが本棚の前に立っていた。
「わ、はやっ」
「そうか?」
 まだ十分くらいしか経ってないのに、私はまだ半分も読み終わってないのに、どう考えても早い。
 次の本を探すアオヤマは、私が座っているせいもあってやはり背が高い。私は自分が三年前から全く変わっていない気がして、少しアオヤマが遠く見えた。


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