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002:輝石 2/2

 いつものように二人で図書室のカウンタに並んで、いつものように世間話をして、ふと浮かんだ疑問を――聞けたらどんなにいいだろう。
 ほんと、今すぐにでも聞こうと思ってるんだけどね。その石をくれたのどんな人? って。ほら、今も手の中で転がしてるじゃん。普通に聞けばいいんだよ、普通に。
「あ、のさ。笹原、さん」
 つっかえた。しかも声が裏返りそうだった。走り去りたいくらい恥ずかしいけど、笹原さんは気にしていない様子でこっちを見る。
「なに?」
「いや大したことじゃないんだけど、さ。その石」
「うん?」
「もらった人、どんな人なのかな、とか」
 首を傾げられてしまった。なんで変な質問するのか絶対疑問に思ってるよ。不思議そうな顔してるよ。それでも笹原さんはちゃんと答えてくれるわけで。
「近所に住んでたお兄さんだよ」
 そう言って、手の中に石に視線を落とす。
「地質学っていうのを勉強してて、その関係で行ったところで、これを持ってきてくれたの」
 最近は会ってないけどね、と付け加えて、何かを懐かしむように目を細める。その人のことが大好きなんだって隠す気もないんだろうか。分かりやすすぎるくらい伝わってくるのに、はっきりと聞かないと引き下がれないのは何故だろう。
「その人のこと、好き?」
 笹原さんは顔を上げて、目を丸くして俺を見た。顔、真っ赤だ。
「え、あ、あの」
「あ、ごめん、変なこと聞いたかな」
 こっちが驚くくらい慌てるから、思わず謝ってしまう。顔を伏せながら首を横に振って、笹原さんはまた顔を上げることはせずに小さな声で答えた。
「あの、どうせ会えない、から。あんまりそういうの、意味が無くて」
「あ、そうなの?」
「もう家の近くには住んでないし、地質学とかの研究で色んなところに行ってる、から。来週も来れないって」
 あ、と聞こえるか聞こえないかくらいの声を出して、笹原さんは唇に手を当てた。本人にその気はないんだろうけど、聞いてくださいと言わんばかりの動作だ。
「来週なんかあるの?」
 聞いてみると、ちらりと上目で見られた。あ、やばい可愛い。
「……誕生日、だから」
「へ?」
 上目遣いに夢中でうっかり聞き逃すところだった。誕生日か。
「誕生日って、笹岡さんの?」
「うん。一応、約束してたんだけど」
 でも仕方ないから、と全然仕方なくなさそうな表情で付け足す。俺なら絶対そんな顔させないし、誕生日だって必ず祝うのに。なんて思ってしまうのはただの負け惜しみだろうか。
「……でも、好きなんだ?」
 こくりと、ためらうことなく頷かれてしまった。結構恥ずかしがりなのに、ゆっくりと反応することが多いのに。それだけ好きってこと、だよなあ。やっぱり。
「だい、すき。けっこう前、から」
 真っ赤っかな顔でそんなことを言って。負けたなあって、最初っから勝負できてたわけでもないのに思ってしまう。
「そっか。上手くいくといいね」
 ありがと、って消え入りそうな声で返される。男の子は泣かない。頑張れ俺。相手の幸せをそっと願うのがかっこいい男ってもんだ。
「誕生日って来週のいつ?」
「えと、木曜日」
 じゃあ水曜の放課後にプレゼントでも買うか。んで休み時間とかにさりげなく渡して……ん?
「その日って俺ら図書室当番じゃなかったっけ?」
「う、うん」
「いいの? せっかくの誕生日なのに」
「いいの。そんなに遅くならないし。家に帰ってから、ケーキ食べるくらいだから」
「そっか」
 好きな人が帰ってくるとなったら当番なんてやらないんだろうな、とか思う自分が恨めしい。いや、でも逆に考えればその人が来ないおかげで一緒に図書室当番ができるのか。
 とりあえず、うん。今日は笹原さんに欲しいプレゼントを聞いていじり倒しておこう。



 今日も図書館は平和です。というか、暇です。
「今日も人、来ないね」
「あー、うん。そうだね」
 笹原さんはいつも通り右手に石を包んで、左手で本を読んでいる。相変わらず器用だ。そして今日が誕生日のはずだけど、特におかしな様子は見られない。おかしいのは俺の心中の方です。朝からできるだけ挙動不審にならないように努めてるんだけど、ちょっと失敗してるかもしれない。
「あのさ、笹原さん」
「うん?」
本から顔を上げて、こっちを見られるだけで慌てそうな自分がいる。告白するわけでもないっていうのに。
「やー、今日誕生日じゃん? おめでと」
 噛みそうになりながらも伝えたら、笹原さんははにかみながらも笑顔を浮かべてくれた。やっぱり可愛い。
「ありがとう」
「あとこれ、プレゼント」
「え?」
 リボンが巻かれた、落ち着いた赤色の箱。手の平サイズのプレゼントを差し出すと、笹原さんは大げさなくらいに首を振った。
「い、いいよ! そんな気遣わなくてって、先週も言ったのに」
「気を遣うっていうか、俺があげたいだけだよ」
「で、でも……」
 困った顔でプレゼントをじっと見つめて、ちらりと俺を見る。
「えっと、じゃあ……ありがと」
「どういたしまして」
 まだ恥ずかしがっているらしい笹原さんににっこりと笑いかけてみる。ごめん、本当はすげぇ緊張してる。心臓破裂しそう。
「あ、開けてもいい?」
「うん」
 手の中にあった石をカウンタに置いてから、おそるおそるリボンをほどいて箱を開ける。出てきた物を見て笹原さんは首を傾げた。何に使うか分からない小さな巾着袋だから、無理もないかも知れない。
「ほら、その石さ。日光に当てちゃ駄目らしいから、入れ物があった方がいいかと思って」
「あ、そっか。そうだね」
 カウンタの上に置いてあった石を袋に入れて、紐を引っ張って口を閉じて、
「ありがとう。すっごく、嬉しい」
 何、その笑顔。
「え、あ、あー、うん。喜んでもらえて良かった」
 やばい、可愛い。その可愛さはどういうことなんだ。そんなに喜んでくれたのは嬉しいけど可愛すぎて直視できない。浄化されそう。
 なんか、ごめん。
「え、何か言った?」
「ううん、何も」
 少しだけ。本当に少しだけだけど、彼女が大好きな人からもらった石が、俺があげた袋に入っているのを見て、彼女の好きな人が嫉妬めいた感情でも覚えないかなあ、なんて考えていた。まあ、笹原さんが好きな人が彼女のことをどう思ってるかなんて分からないし、嫉妬なんてするはずもないって分かってるんだけどさ。
「そういえばね、柏木くん」
「ん?」
「この石をくれた人がね、今日は無理だけど、もうすぐこっちに来られるんだって」
 巾着袋の紐をいじりながら、嬉しそうな顔で言う。今の笑顔よりさっきの笑顔の方が可愛かったよな、なんてちょっと優越感じみたものを感じながら。
「よかったじゃん。じゃあ遅めの誕生日プレゼントとか?」
「もらえる、かな。あんまり期待はしてないけど」
 いつもは無表情なのになかなか笑顔が消えない横顔を、一度くらいなら、って心の中で言い訳しながら手を伸ばした。
 さらさらの髪の毛を数回だけ、優しく撫でる。
「応援してるよ」
 彼女は恥ずかしそうに、だけど嬉しそうに、こくりと頷いた。

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