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02「ペアリングを買いました」

 
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 私が通う大学にはカフェテリアがある。ご飯時は混んでるけど夕方はそうでもなくて、まったりと話をするのに向いている。そんなカフェテリアで、同じ国文学科の高島くんとお話中。うん、青春満喫してるって感じだね。
「というわけで、私の好きな人になってください」
「断る」
 悩む暇さえ見せてくれなかった。ひどい。
「むしろよかっただろ。両思いじゃん」
 なげやりに言って、私のおごったコーヒーを飲みやがる。
「全然良くないって。分かるでしょ?」
「まあ、血の繋がった姉妹だしな」
 何でもないことのようにさらっと言う。まあ、そういう反応してくれるから相談してるわけだけども。
「だから、お願い。お礼とかするからさ」
「お礼ねえ」
 コーヒーの入ったコップをくるくる回して、高島はその水面に視線を落とす。あれ、もしかしてお礼って飲み物一杯くらいだと思ってる?
「いやあの、ご飯とかおごるし。代返とかするしノートとか貸すしさ」
「別に単位に困ってねぇし」
 確かに。むしろ私の方が代返とかしてもらう機会は多い。
「えーっとじゃあ、あの、欲しい物とか買ってあげるし」
「援交か」
「違うよ!」
 誰が高島なんて買うか。有紗なら何万円でも……いや、有紗は買っちゃ駄目だな。そういう汚れたことはさせられないもんね。
「ああ、じゃあ」
 高島が不意に声をあげて、ぽん、と手を打つ。
「代わりに俺の恋人になってくんねぇ?」
 え、何それ。高島が私に惚れてたとかそういう展開? 残念ながら私、高島のことはただの友達としか……。
「お前、変なこと考えてるだろ」
「うん。少女漫画に持って行こうとした」
「そうじゃなくて。お前が俺にやらせようとしてるのと同じようなことやってくれって言ってんの」
「恋人のフリってこと?」
「そう」
 なんだ、つまんないの。
「今から付き合うことにしとけば妹に言い訳するのも楽だろ?」
「そっか。そしたらわざわざ会わせる必要も無くなるもんね」
「じゃあ決まりな」
 あっさり決まった。え、いいの?
「高島の方は? どうすればいいの?」
「特に何も。誰かに聞かれたら俺と付き合うことになったって言っといて」
 そんなんでいいのか。ということはトラブルの相手って大学の人?
「うん、分かった」
「よし。じゃあ行くか」
「へ?」
 コーヒーを飲み終わった高島が立ち上がる。
「え、どこに? 私を見せびらかしに?」
「違う」
 数歩歩いた高島に手招きされたので、とりあえず鞄を持って後を追う。
「アクセサリー屋。一番楽だし」
 いや、意味が分かりません。



 つまり。ペアリングを買ってしまえばカップルだって分かりやすいということか。
「最初に言おうよ」
 大学の最寄り駅の駅ビル。その中にあるアクセサリー屋さんでぽつりと文句を言ってみる。
「理解しなかったお前が悪い」
 なんたる暴言。第一こんな高い物買えるお金なんて持ってないっつーのに。
「今日いくら持ってたかなー……」
「いいよ。俺が買うし」
「は?」
 何言ってんだこいつ。ここに並んでる物の値段みんな四桁だよ? 千円とか二千円ならまだしも、一個五千円とか普通にあるよ。二個買ったら一万円になっちゃうよ。
「お前五月生まれだっけ?」
「へ? うん」
「じゃあエメラルドか。お前はアメジストな」
「え。何で」
「俺の誕生石だから」
 お互いの誕生石の付いたペアリングを買うつもりですか。どれだけバカップルを演出したいんだよ、高島。
「どれがいい?」
 いたって真剣な表情で尋ねてくる。
「えーと、よっぽど変なデザインじゃなければ」
 なんで私は高島とこんなところでペアリングを選んでるんだろう。カップルのふりをするからだよね。分かってるけどさ。
「じゃあこれとか」
 高島が取り上げたのは銀色の細い指輪。小さい宝石がくっついてる以外には何の飾りもないシンプルな指輪だ。
「いいんじゃん? シンプルだし」
「じゃ左手出して」
 言われた通りに出してみる。うん、妙に恥ずかしいな、指輪付けてもらうのって。
「ちょっと大きいか?」
「いや、うん。そういう問題じゃない」
 なんで薬指に付けたんだよ高島。結婚はしないよ。
「もっとさ、人差し指とか中指とかあるじゃん」
「は? 一番分かりやすい所でいいだろ」
 良くない。良くないよ。お願いだから薬指でサイズ調整しないで。ああもうジャストサイズの指輪とか見つけてこないでよお願いだから!
「よし。七号だな」
「よし、じゃなくて!」
「買うのは俺だから反論は受け付けません」
「いいよ私お金出すから!」
「持ってんのか?」
「うっ」
 財布の中身を確認してみる。……千円札が一枚しか入ってない。だって、大学行くだけならお昼ご飯の代金あれば十分じゃん。まさか指輪を買いに行くなんて思わないじゃん。
「じゃあ買ってくるから」
「いつの間に!」
「自分の指のサイズくらい知ってる」
 引き留める間もなくレジへ向かってしまった。あああ、私の左手の薬指。こうなったら右手に付けてやるしかない。
 あんまり店内にいると他の人の邪魔になりそうだから、高島の背中を確認しつつ店の外へ出る。他に見るものもないから遠くからお会計中の高島を観察していたら、ふと後ろから声がかけられた。
「お姉ちゃん?」
 こんなところで聞くとは思っていなかった声。
「あり、さ?」
 振り返れば、有紗が不思議そうな顔をして立っている。隣には友人らしい女の子。
「やっぱりお姉ちゃんだ。どうしたの?」
「え、あ、有紗こそ」
 ここは大学の最寄り駅。我が家からは電車で一時間くらいかかるはず。
「ちょっと買い物したかったから」
 ね、と有紗が隣の子に顔を向けると、その子もこくりと頷く。買い物って、わざわざこんなところまで来なくても。わざわざ私がこんな買い物してる時に来なくても。
「お姉ちゃんがアクセサリー買うなんて珍しいね。何買ったの?」
 偽彼氏とのペアリングです、なんて口が裂けても言えない。いや、言った方がいいのかな。彼氏ができましたって言っちゃった方がいいんだよね。いや、分かってるけど。
「沙月」
「うわはい!」
 いきなり後ろから声をかけられた。ていうか、下の名前呼ばれた。高島に。心臓に悪すぎる。
「高島、」
 有紗が、と言おうとしたら左手を掴まれた。え、何。何?
「はい。お待たせ」
 指輪、付けられた。高島そこ左手の薬指だから!
 いや落ち着け私。高島は彼氏、彼氏。恋人。
「あ、ありが、とう」
「ん」
 高島も左手の薬指に指輪を付ける。うわあ、バカップルだ。
「お姉ちゃん、その人誰?」
「え。ええっと」
 なんか有紗の顔が怖い、気がする。ていうか眉しかめてる。そりゃそうか、好きな人がいるって言った次の日にペアリング買ってるんだもんね。
「ああ。もしかして有紗ちゃん?」
 高島が首を傾げて問う。
「そうですけど」
 警戒態勢を解かない有紗に、高島がにこりと笑った。
「初めまして、俺は高島遼二。君のお姉さんの恋人だよ」
 高島、愛想笑いとかできたんだ……。



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