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01「恋人ができました」

 
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 ぐらりと視界が揺れる。背中には柔らかなシーツの感触。遠くには天井。そして目の前には、有紗がいる。
「お姉ちゃん、あたしのこと好きだよね?」
 感情の読めない瞳で尋ねられて。駄目だ、と。今さらになって気が付いた。



「おはよー有紗。今日も可愛いね」
 挨拶ついでに抱きつこうとしたら華麗に避けられた。残念。
「おはようお姉ちゃん。コーヒー飲む?」
「飲む飲む」
「じゃあ淹れて」
「……はーい」
 お中元でもらったドリップコーヒーの袋を開ける。コップの上に乗せるタイプだから本当は一杯分なんだけど、奥村家は貧乏性だからポットに乗せて二杯分を一度に淹れてしまう。
「一個ずつ使ってよ。薄くなるじゃん」
 訂正します。貧乏性なのは私だけ。
 砂糖は一杯、ミルクは無し。コーヒーを渡すと有紗は礼を言いながら受け取って、口を付けた。唇きれいです。コーヒーを飲む可愛い有紗を網膜に焼き付けながら私もコーヒーを飲む。ちょっと俯いてるところとか、そのせいで見えちゃううなじとか、熱そうにちびちび飲むところとかもう挙げたらきりがないくらい可愛い。お持ち帰りしたい。ここが家だけど。
「そういえば、今日は早いんじゃないの?」
「へ?」
 あ、観察に夢中で全然聞いてなかった。
「大学。月曜は一時間目からでしょ」
「ああ、うん。今日は休講」
「ふうん」
 興味の無さそうな相槌を打って、有紗はまたコーヒーに口を付ける。視線は床に落としたままだ。
「有紗?」
 声をかけると、コップに口を付けたまま視線をこちらに向ける。可愛い。可愛いけどそんな場合じゃなくて。
「えっと……なんか、あった?」
 毎日のように有紗を観察している私には些細な違いも丸わかりなのだ! というわけではないけど、毎日一緒に暮らしていれば少しくらいの違いは分かる。いつもの鋭さが無いというか、元気が無いというか。
「なんで?」
「あ、いや、何もないならいいんだけど」
 有紗は何故か眉間に皺を寄せて、コップを机に置いた。
「なんか、告白されてさ」
「うん?」
 今なんて言ったこの子。
「同じクラスの、結構仲良い人に」
「男の子?」
「当たり前じゃん」
 そうか。告白か。有紗も高校生だもんな、恋人の一人や二人はできるよね。相手の子が目の前にいたら殴って追い返してたかもしれないけど。
「えっと、おめでとう?」
「うん」
 浮かない顔で有紗は頷く。
「その子には何て返事するの?」
「うん」
 返事になっていない返事だけが返ってきた。もしかして断るつもりなのかなとか思いつつ、ちょうどいい言葉が思い付かなかったので私も沈黙してみる。有紗は制服のリボンをいじってみたり、髪の毛をいじってみたりしてから、ようやく口を開く。
「あのさあ」
「なに?」
「お姉ちゃん、止めたりしないの?」
「え、なんで」
 有紗はまた眉をしかめる。ああ、せっかくの可愛い顔が。そんな表情も可愛いけど。
「だって、いつもあたしのこと可愛いとか好きとか愛してるとか言ってるじゃん」
「う、うん」
「だから反対されると思った」
 まあ確かに、私の意見を聞くんだったら反対するだろうけど。さすがに私が口を出していいことじゃないよね。
「有紗がその子のこと好きならいいかなーって思うけど」
「別に、好きじゃない」
「あー……そうなんだ」
 告白した子かわいそうに。うん、まあ仕方ないね。こればっかりはね。全然嬉しくなんかないよ。彼氏できなくてよかったーとか思ってないよ。
「でも返事するのめんどくさいし。気まずくなるの嫌」
 あたし悪くないのに、と小さく呟く。可愛いなあ、もう。
「そうは言ってもさ。向こうもそれなりに気は遣ってくれると思うよ」
「でもさー……」
 不満そうな顔で私をちらりと見て、また視線を戻す。
「もう、学校さぼっちゃおうかな」
「何言ってんの。だめだめ、ちゃんと行きなさい」
「やだ」
 そっぽを向いてしまった。可愛いけど駄目だ。心を鬼にしなくては。
「今日休んだからって解決するわけじゃないでしょ」
「そうだけどさあ」
 まだ何か言いたそうに唇を尖らせるけど駄目なものは駄目だ。口では負けない、はず。
「ね、お姉ちゃん」
 上目使いで、有紗が私を見つめる。潤んだ瞳。そして強調される胸の谷間。
「今日一日だけでいいから、一緒にさぼっちゃおう?」
 はいもちろんです! 可愛いってすごいね。すさまじいね。
「し、仕方ないなー、もう。今日だけだよ? 明日はちゃんと行くんだからね?」
「うん。ありがと、お姉ちゃん」
 ああもう可愛いこの子。鼻血出そう。



 奥村家の父と母は同じ職場で働いています。長めの出張なんかしょっちゅうで、一ヶ月後まで帰ってきません。兄はとっくに独立しました。他に兄弟はいません。つまり今この家には、私と妹の二人きりです。何この状況。据え膳ってやつ?
「あー、有紗。どっか遊びに行く?」
「ううん。家にいる」
「……そう」
 自分の部屋があるのにわざわざ私の部屋で、私のベッドに寝転がって、漫画をぺらぺらめくっている。なんで? あ、もちろんただの姉妹だからだよね。でもいつも抱きつこうとすると逃げるじゃん。なんでそんな抱きつきやすそうな位置にいるの。適度に距離を取ろうよ。
「ねー、有紗?」
 呼びかけると視線だけがこっちを向く。
「抱き付いていい?」
「いいよ」
 即答だった。いつもは駄目って即答するのに。本当に今日どうしたの。不思議を通り越してお姉ちゃんは心配になってきたよ。どうしたもんかと迷っていると、有紗が首を傾げた。
「しないの?」
「抱き付かせていただきます!」
 でもくっつきたくなっちゃうのは仕方ないよね。有紗可愛いからね。ん、いい匂い。
「ね、お姉ちゃん」
「んー?」
 ああ幸せ。柔らかい。このまま死んでもいいわ……。
「あたしのこと好き?」
 ぐるりと、視界が回転して。
「……へ?」
 背中には柔らかなシーツの感触。目の前には有紗。いわゆる押し倒すっていう姿勢に、何故かなってる。
「あたしのこと、好きだよね?」
「う、ん」
 無表情に尋ねる声に気圧されて、思わず頷いてしまう。まっすぐに私を見る有紗の、眉がかすかにしかめられた。
 唇が、私の耳元に寄って。あたしも、って。
「お姉ちゃんが、好きだよ」
 鳥肌が立つような、身体が震えるような。
 一番言って欲しかった言葉。欲しくてたまらなかった言葉。だけど、言われちゃいけなかった言葉。
「有紗……?」
 嘘でしょ、って言いたかった。でも有紗の表情が真剣そのものだったから、無理矢理に口の端を吊り上げた。
「そりゃ妹だし、さ。嫌いな訳ないじゃん?」
 冗談に聞こえるように笑えば、有紗の表情が不満げなものへと変わる。何それ、と力の抜けた言葉が漏れた。だから笑顔のまま、有紗の頭を撫でる。
「いきなりどうしたの。あ、好きな人ができたとか?」
 有紗の肩をわざとらしくならない程度に押して、二人でベッドの上に起き上がる。
「大丈夫だよ、彼氏とか連れてきてもおねえちゃん殴ったりしないから」
 あはは、とわざとらしい笑いを追加する。大丈夫、ちゃんと笑えてる。その笑顔を崩さないように注意しながら、また口を開く。
「実はさー、私もいるんだよね。好きな人」
 いつものように軽い調子で、少し照れたようなふりをしながら。有紗は目を丸くして、え、と小さく声を漏らした。すぐに表情が険しいものへと変わる。
「誰。あたしの知ってる人?」
「え、あー、っと」
 しまった、そこまでは考えてないよ。
「同じ大学の人?」
「あー、うん、まあ」
「同じ学科?」
「う、あ、うん」
「ふうん」
 少しの間だけ逸らされた視線が、また私へ戻ってくる。
「高島って人でしょ」
「え?」
「他の男の人の話聞いたことないし」
「あ、そう……だっけ」
 確かに有紗と話す時に話題に上るのは高島くらいかもしれない。そもそも我が国文学科は男子の割合がすごく少ないけれど。
 いや、でも高島だということにしたら迷惑がかかるかもしれないし。架空の人物にしといた方がいいかな。
「あたし協力するよ?」
「へ?」
 さっきまで険しい顔をしていたくせに、にこりと笑う。何その可愛い笑顔。
「まだ普通の友達なんでしょ? いきなり二人でとかは無理だろうから、あたしとあたしの友達も入れて四人で出かけようよ」
「え。え、ちょっと待って」
 お姉ちゃんは協力してほしいとか一言も言ってないよ。私がうろたえた理由を怖じ気づいたからと思ったのか、有紗はやけに嬉しそうな笑顔で話を続ける。
「大丈夫だって。あたしが友達に片思いしてることにしてさ、あたしの恋を応援したいからーって言って誘えばいいじゃん」
「や、そういう問題じゃ……」
「なんで?」
 首を傾げた有紗も可愛い。いや可愛いけどそれどころじゃない。
「いいって。あの、悪いし、さ」
「誰に?」
「いや、有紗にさ。そんな面倒なことさせられないし」
「駄目だよ」
 にやりと、悪戯をする子供みたいな顔で有紗が笑う。
「あたしが見たいの。お姉ちゃんの好きな人」
 だからいいでしょ? なんて可愛い笑顔で言われたら。




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