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兵器の記憶03「兵器のこころ」

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 砦の外では兵士達が斬り合っている。ネイシャと俺は少し距離を置いて、砦を囲む石壁の上からそれを見下ろしていた。無言で彼らを殺すための力を組み上げていく。ネイシャは力を組み上げるのが早くて、しかも綺麗だ。少し羨ましく思いながら、俺も急いで、けれど慎重に細部まで整える。
 俺達に気付いたらしい兵士が弓をつがえた。その矢先は俺に向いている。ネイシャがちらりとこちらを見て、目を丸くした。
「何を――」
 彼女が言い終わるより早く、力を地面に向けて放った。殺すための力ではなく、気絶させるだけの力を。
 派手に土埃が舞い上がる。けれど石壁の上から見ている限り、死人は出てなさそうだ。吹き飛ばされて怪我をした人はいくらかいそうだけど、そこは誤差の範囲ということにしておこう。
「……サイル?」
 訝しげなネイシャの声。俺は微笑んで、その声に応えた。
「大丈夫だよ、バゼル少佐は砦の中に引っ込んでるし」
「そうじゃないわ」
 彼女は首を振って、また俺を見る。
「何故、こんなことをしたの?」
 真っ直ぐに声が響く。答は多分、ネイシャも分かっているだろう。ただ分からないふりをしているだけだ。
「殺したくないから」
「馬鹿なこと言わないで」
 冷たい漆黒の瞳が俺を見据えた。
「死ぬわよ」
 その言葉には、微笑みで答えた。ネイシャはまた首を振ると、気絶した人間ばかりが転がる地面に目をやる。
「馬鹿ね」
 卑下か、憐憫か、はっきりしない感情が言葉に滲んでいた。
「そうかも」
 適当に頷いておく。ネイシャがまた力を組み立てた。相変わらず綺麗な、殺すための力だ。剣で死ぬよりこういうので死ぬ方が幸せだろうな、とどうしようもないことを考えてみる。
 そんなことを考えていたせいだろうか。気絶していたはずの兵士が起き上がり再び弓をつがえたことに、俺は撃たれるその時まで気付かなかった。



 矢が、彼の身体を貫いた。
「サイル!」
 崩れ落ちる彼に駆け寄る。抱き上げようとした時には既に血溜まりができ始めていた。彼は私を見て、不格好な笑みを浮かべる。
「……うたれた」
「何言って――」
 言葉の半ばで、いきなり頭を引き寄せられる。そのすぐ上を矢が通った。
 ――邪魔だ。
 一瞬、思考が黒く染まる。形になりきっていない力を、感情だけで下へ叩き付けた。爆風がここまで届いたけれど、それを気にしている暇も余裕もなかった。上着を脱いで、彼の傷口へ押し当てる。矢は脇腹に刺さって、彼が倒れた時に外れたようだ。押し当てた上着はどんどん血に染まっていく。
 きっと、助からない。
 思わず唇を噛む。サイルが微かに呻いて身じろぎした。
「い……たい」
「当たり前でしょ、矢が刺さったんだから」
 強がる自分の声が震えていた。恐怖しているのだろうか、彼が死ぬことに。
 人の死だ、今まで数え切れないほど見てきたはずの。あれだけ殺してきて何の感慨も持たなかったくせに、今さら何を怖がるというのだろう。
「ネイ、シャ」
 掠れた声が私を呼ぶ。
「何?」
「ころして」
 すぐには、言葉を返せなかった。何も考えられなくなって、サイルの顔をまじまじと見てしまう。
「な、に?」
 深緑の瞳が真っ直ぐに私を捉えた。彼は小さく息を吸う。手が、痛いくらいの力で私の腕を掴んだ。
「痛い、から。殺して」
 その言葉で理解できないほど馬鹿だったら、むしろ楽だったかもしれない。だけど、このまま苦しむより今すぐに死んだ方が楽なのだと、私にはそれをできる力があるのだと、分かっている。躊躇する理由なんて無いはずだ
「……いや」
 囁くようにこぼれた言葉は、まるで子供のわがままだった。伸ばされた彼の手が、頬に触れる。ひやりと、死人のような冷たさが頬を撫でた。
「俺も、そう、言ったよ」
「……え?」
「ミアを、殺した、ときに」
 うそ、と気付けば呟いていた。どんな場面であれ、彼が友人を殺すなんて想像が付かない。
「殺して、って、苦しんでたから」
 頬に触れていた手が髪を掴む。するりと離して、彼の手は硬い石の上に落ちた。
「そしたら、ミアが、さ」
 一度言葉を切って、息を吸う。
「私を殺したら、サイルくんは、私のこと、ずっと、思い出すね、って」
 傷口を押さえる手に、力がこもる。馬鹿な子だ、と声には出さずに呟いた。
 サイルは長く息を吐いて、それから少し笑った。
「何か、あんま、痛くなくなった。そろそろ、死ぬ、かな?」
「……そうかもね」
 それが強がりで、私への優しさだと分かったから、私もいびつな笑みを浮かべてみせる。力を、細く、強く、繊細に組み立てていく。少しも隙の無いように、彼の身体を壊しすぎないように。
「綺麗だ」
 ぽつりと、消え入りそうな声で彼が呟いた。
「ありがとう」
 手を、そっと彼の胸に乗せる。目を閉じて、息を吐く。

 力が、サイルの身体を貫いた。


Fin.



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