入口 > スポンサー広告 > スポンサーサイト恋のごほうび > 恋のごほうび04「もらってしまった」

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

恋のごほうび04「もらってしまった」

←前へ目次

 もしかして、解いても解かなくてもよろしくない結果が待っているのではないだろうか。解くと解かないの間を取ればいいのか。理解はできてるのにちょっとミスしちゃった、とか?
「ほんとにできてるね」
 いきなり祐人に手元を覗き込まれて、反射的に教科書を閉じる。
「あとは数を合わせるだけだね」
「う、うん」
 私が返事をしても祐人は離れようとしない。どうしようもないので、仕方なく問題を解いていく。どうしよう、どうしようもないけどどうしよう。キスは嬉しいけど、いや嬉しいとかそういう問題じゃない。なんでこんなことになってるんだよ。どう考えてもおかしい。祐人の馬鹿。
 そんなことを考えている間にも正解へ近付いていく。二と書くべきところに三と書いてみたら不思議そうな顔をされたので、うっかり直してしまった。
「でき、た」
「おお、すごい」
 祐人は拍手して、頭を優しく撫でてくれる。だから子供か、私は。
「本当にできるとは思わなかったよ」
 けなされてる気もするけど、そんなことを気にしてる場合じゃない。とにかくこの場を何とか切り抜けなければ。
「じゃ、じゃあババロア食べよっか!」
「だからまだ二時だってば」
 あっという間に却下された。不自然に横を向いていた私の眼に祐人の顔が見えて、しまった、と思ったときには手遅れだった。
 キスされた。唇、に。一瞬だったけど、触れた唇の熱が残っている。
 ファーストキスの味はレモンとか苺とかよく言うけど味はしなかったな、なんてどうでもいいことを考える。頭はぼうっとしてるのに、心臓は今にも破裂しそうだ。
「大丈夫?」
「だめ、かも」
 反射的に返事をして、祐人を見上げる。細い指が、ひやりと頬を撫でた。
「嫌だった?」
 そう尋ねる表情が寂しそうで、私は何度か首を横に振った。
「嫌じゃない、けど」
 なんて言えばいいのか分からない。相変わらず心臓はうるさくて、上手く考えがまとまらない。どうすればいいのか分からなくて、ただ祐人を見上げる。
「ごめんね、変なことして」
 祐人は困ったような、寂しそうな表情で私の髪を少し撫でて、すぐに離れていく。それだけのことに、妙に不安を煽られる。
「へ、変なことじゃない、と思う」
 私の言葉に、祐人は眼を瞠る。
「変かもしれないけど、でも嫌じゃなかったし、だから……」
 頭が働かなくて、ちゃんと文章が作れなくて、でも何も言わなかったら祐人がずっと離れたままのような気がして、とにかく言葉を続ける。
「こ、恋人がすることだからやっぱり変かもしれない、けど、むしろしたいっていうか、だから、恋人になりたいから、やっぱり変じゃなくて、ええと、」
 思いつく言葉を次から次へと口にする。あれ、今、うっかり告白しなかったか?
「わ、私いま何て言った?」
 私を見つめたまま固まっていた祐人は、ゆっくりと口を開く。
「恋人に、なりたい?」
「うああ!」
 うっかりしてた、どう考えてもうっかりしてた! 何を口走ってるんだ私は。もう少し言いようというか、ムードというか文脈というかそういうものが足りないよ!
「ち、違う今のなし! 間違えた!」
「なし、と言われても聞いちゃったし」
 祐人は相変わらずの無表情で冷静に突っ込んでくる。お願いだからもう少しリアクションしてくれ。いや、あんまり反応されても困るけど、でも。
「聞かなかったことにして……」
 思わず頭を抱える。祐人は首を傾げて、少し考えてから頷いた。
「分かった。聞かなかったことにしとく」
「だ、大丈夫?」
 何が大丈夫なんだろう、と自分に突っ込みたくなる。
「大丈夫だよ」
 祐人の手が、私の手をとる。
「え。え、何?」
 耳に、祐人の唇が近付く。息がくすぐったくて、思わず目を閉じた。視界が塞がって、音だけの世界に響く声。
「好きだよ、秋奈」
 耳元で言われなければ聞き取れないような、小さな声。だけどその言葉はしっかり届いて、私は開いた目を何度も瞬かせた。
「ゆう、と?」
 祐人の表情を見ようとして振り向く前に、背中に手が回って、抱きしめられる。耳元でまた、彼の声が囁く。
「聞かせて」
 何を、なんて問うほど馬鹿じゃない。言うべき言葉は分かっていたけど、喉が上手く動かない。
「は、恥ずかしくて、無理」
 おそるおそる手を伸ばして、祐人の身体を抱き返す。
「やだ。聞きたい」
 子供のような祐人の声。既に恥ずかしくて死にそうなのに、これ以上は無理な気がする。そう考えてるのに、言いたい、と頭のどこかで思っている。もうちょっとで言えそうなのに、そのもうちょっとが難しい。うう、恥ずかしい。
「秋奈、言って?」
 祐人の服を強く握る。口を開いて、一度閉じて、また開く。
「――好き」
 強く強く、抱きしめられる。たった二文字の、こんな簡単な言葉を口にすることがどうしてこんなに難しいんだろう。
「は、恥ずかしいから、そろそろ離れて」
「ん」
 ようやく離れた祐人の顔は少し赤くなっている。
「祐人、顔赤いよ」
「秋奈だって」
 頬をぺちぺち叩いて、少しだけ笑い合う。
「ね、祐人」
「なに?」
「やり直し」
 祐人は何度か瞬きして、それから微笑んだ。細い指が頬に触れる。私は上を向いて、目を閉じる。
 さっきより少しだけ長く、私たちは唇を触れ合わせた。

終わり。    


上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。