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看守と死刑囚10「英雄の話」

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 ファンファーレが鳴り、フィアが花で飾られた壇へ向かう。それだけで溢れんばかりの歓声が広場を覆う。フィアに頼まれ隣を歩いてはいるが、自分がひどく場違いに思える。
 戦争が終わってから今日でちょうど一年になる。エフリウス・リベットが監獄へ入れられ自身が釈放された後、多くの批判があったにも関わらずフィアは秘術を用い、その圧倒的な力の差を見せつけることで犠牲を最小限に抑え終戦へ持ち込んだ。その途端、それまでの批判が嘘のように消えフィアはエリレス国の英雄となった。
「ねえ、シントさん」
「何だ」
 歓声にかき消されないようにと声を張り上げる。
「僕はね、この国の人達が大好きですよ」
 言葉の意図が掴めず眉根を寄せる。フィアは俺の反応を楽しんでいるようだった。
「でも戦争を始めた人と、兄さんを苦しめた人は大嫌いです」
「……ああ、俺もだ」
 フィアが壇上へたどり着くと歓声はますます大きくなる。いい加減耳がおかしくなりそうだ。フィアはまだ民衆へは目を向けず、俺に向かって宣言する。
「だから今日は、この国が一度終わる日。僕の好きな人しかいない国にするんです。酷いわがままでしょう?」
「英雄のわがままなら、喜んで聞き入れてくれるんじゃないか」
 くす、とフィアが笑む。髪を伸ばしているせいか、最近はますます中性的に見える。
 民衆と向かい合い、フィアは拡声器に手を触れる。微かな魔力を送れば遠くまで声を届けるという不思議な道具だ。
「皆さん」
 フィアの一言で、広場が静まりかえる。
「今日は僕の話を聞きに来て下さってありがとうございます」
 誰もが彼の言葉を聞き逃すまいと息を殺している。
「今日でナスリア国との戦争が終わってちょうど一年です。だから普通なら平和の良さとか、この国の素晴らしさを演説するところなんですが、今日はちょっと違う話をしますね」
 広場が少しずつ騒がしくなり始める。面白い話だろうと期待している者が半分、何を話すか予想もつかない者が半分といったところか。
「戦争が終わった少し後、僕の兄であるエフリウス・リベットが死んだことを覚えていますか?」
 一気にざわめきが広がる。
「兄さんは今の僕のように英雄と呼ばれていました。そして昔の僕のように、秘術を盗み出した大罪人だと言われています。兄さんは勇敢にも自分の罪を告白しました。しかし全ての真実を話す前に、彼は何者かに殺されました。」
 ざわめきはしばらく止みそうにない。フィアはその様子を満足げに見下ろしている。
「術者連盟の連盟長補佐を務めていたクレソノさんがつい先日亡くなったのをご存じでしょうか。それをきっかけとして、僕は今、こんな話をしています」
 一度言葉を切り、たっぷりと間を持たせる。民衆は少しずつ静まり、次の言葉を今か今かと待ちかまえる。広場が完全に静かになるのを待って、フィアは口を開いた。
「何故兄さんが秘術を盗み出さなければいけなかったのか。何故ナスリアは戦争を仕掛けてきたのか。大罪人と呼ばれるべきは誰なのか。今ここで、お話ししましょう」
フィアは話し始める、この国を終わらせるために。

fin.


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