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看守と死刑囚09「向こう側の声」

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「フィア」
 僕の名を呼び、シントさんが歩み寄ってくる。いくらか機嫌が悪そうに見えるのは気のせいだろうか。
「どうしました?」
「電話だ。エフリウス・リベットとつながっている」
 話しながら、シントさんは檻の鍵を開け、僕の手首に手錠をかける。
「兄さんと?」
「ああ。少し問題ができてな」
「問題、ですか」
 一通り周りを見回してから、僕は檻の外へ出る。こんなに頻繁に牢から出られるのは兄さんのおかげかなあ、なんて呑気なことを考えていると、シントさんが振り返らずに、ついでのように言う。
「今の会議で聞いたことだが、お前の死刑が早まるようだ」
「えっ?」
「ナスリアがエリレスに宣戦布告した。おそらくナスリアがもう一つの秘術を盗み出したことが原因だ。エリレスが応戦することになればお前の死刑執行は早まる」
 一気に言われて頭が追いつかない。予定では僕はあと五日後の二十五日に死んで、でもそれより早くなるってことは四日後か、三日後か、明後日か。まさか明日ってことはないだろう。混乱した頭で考えている内に電話の前へ着いてしまう。ルーリエさんは僕に受話器を渡すとすぐにどこかへ消えてしまった。まさか、兄さんに電話の内容を聞かないよう言われたとか。シントさんは去らないことを確認して受話器を耳に当てる。
「兄さん?」
「フィアか」
「うん」
 低い兄さんの声。周りを気にして声を抑えているみたいだ。
「話は聞いたか?」
「うん。死刑の日が早まるかもしれない、って」
「そのことだが、早まることが決定した」
「え?」
「今日の昼に会議があったらしくてな。エリレスは応戦することを決めた」
「えっと、つまり、戦争が始まるってこと?」
「ああ。そして戦争が始まる前にお前を殺しておこう、ってわけだ」
「あ、そういうこと、か」
 あれ、でも兄さんが僕を助けてくれるはずで、でも刑の執行が早まったら助けられなくて、つまり僕は死ぬってことかな。さっきから混乱しっぱなしの頭で必死に考えていると、電話の向こうで兄さんが笑った。
「心配するなって。十分間に合うから」
「でも、兄さんがいなくなったらこの国は……」
「何にせよ負けるだろうな。時間が足りなすぎる」
「もし、兄さんが戦ったら?」
 兄さんほどの魔法使いが戦争に加わればそれだけで戦局を左右するし、英雄が先陣を切って戦うとあれば騎士達の士気だって上がる。逆に英雄が大罪人だったと知られれば人々は落胆し、絶望する。そんな状態で戦えば勝てる戦争にも勝てないだろう。
「フィア、何を考えてるんだ」
 兄さんの声が厳しくなる。
「俺なら大丈夫だ。全てを話せば死刑は免れるだろうし、この国だって、戦争に負けても滅ぼされる訳じゃない。だからもう少し自分のことを考えろ」
「……うん」
 どうしてだろう、すごく嫌な予感がする。でもきっと、兄さんが言うのなら大丈夫だ。
「それでいいんだ。もしナスリアが行き過ぎた侵略をするならお前が秘術で撃退してやればいいさ」
 軽い口調で兄さんは笑う。
「1回しか発動してないのに覚えてるかな?」
「大丈夫だって。お前の記憶力は俺が保証してやるよ」
 兄さんに合わせて笑ってみても、どうしても声が沈んでしまう。不自然に落ちた沈黙を兄さんがかき消す。
「じゃあ、そろそろ、な」
「……うん」
 これが兄さんと話す最後になるかも知れないのに、話すべきことが何も思いつかない。
「元気で、ね。兄さん」
「ああ、フィアもな」
 長い長い沈黙の後、無機質な音を立てて電話が切れた。

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