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看守と死刑囚04「はじまり」

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「……ごめんなさい、こんな話をして」
 小さく息を吐く。久しぶりに長く話したから、少し疲れた。シントさんは相変わらず前を向いたままでその表情は分からない。元々何かを言って欲しかった訳ではないけど、こうも押し黙られると少し不安になってくる。
 どういう訳か僕が盗んだという証拠までが残っているから、信じてもらえないことは分かっている。だけど一度話してみると、少しは心が軽くなった気がした。シントさんなら頭ごなしに怒鳴りつけたりはしないだろう、多分。
「フィア・リベット」
 彼は振り向いて僕を見据える。兄さんと同じ、紺色の瞳だ。先ほどと変わらない低く落ち着いた声に、少なくとも感動したり激怒したりはしていないらしいことに安堵する。
「はい」
「その話は事実なのか」
「え?」
「事実なのか、と聞いている」
 その眼差しは真剣で、彼の表情を見た僕は自分が間違っていたことを悟った。彼は僕の話なんか信じないと思っていた。死刑囚の悪あがきだと、下らない虚言だと聞き流してくれると思っていたのに。
「事実ならば、お前は死刑に処されるべきではないだろう」
「違うんです、僕はそんなつもりじゃなくて……」
 何か言わなければ。今さら僕の無実を証明することなんてできっこない。彼が兄さんに気付かれれば、何をされるかなんて分からない。金で済まされれば良い方だけれど、この様子ではそれで納得するかも分からない。
「本当にいいんです。ただ誰かに聞いて欲しくて、それで」
「お前は死にたいと思っているのか?」
「そういう訳じゃありませんけど、でも無理です、今さら」
「そんなのはやってみなければ分からないだろう」
「でも……」
 何か言わなければいけないのに、何も思いつかずに顔を伏せてしまう。
「フィア」
 彼には精一杯だろう優しい声で、僕の名を呼ぶ。
「お前もどこかで、無実を証明したいと思っているはずだ」
 返事ができなかった。否、と言い切る自信はない。確かに僕だって死にたくないという気持ちはある。だけど僕のせいで母さんが死んで、兄さんに陥れられて。消えてしまう寸前の母さんの顔が、残酷に笑う兄さんの声がどうしても頭から離れなくて。
 僕は、全てを話せばシントさんが信じてくれると、期待していたのだろうか?
「でも、兄さんに勝つことなんて、できません」
 昔から、僕にとって兄さんは絶対だ。英雄となってからは国中の人にとって絶対の存在なのだろう。なのにシントさんは、何でもないことのように言ってのけた。
「お前が勝てなくとも、俺が勝てばいいのだろう?」
 思わず顔を上げ彼を見る。今まで一度も見たことのない、不敵な笑みを浮かべていた。何故かじわりと涙が滲む。
「何、言って、だって兄さん、は」
 溢れた涙が頬を伝う。彼を止めればいいのか、期待していればいいのか、僕自身にもよく分からなくなってきた。
「もし勝てなかったら、その時は俺を恨みながら死んでくれ」
「う、ひどい、です……」
 ずず、と鼻をすするとシントさんは大きく溜め息をついた。その表情はとっくにいつもの仏頂面へと戻っている。
「見回りが来るまでにはその泣き顔を何とかしておけよ」
 僕は何度も頷いて、タオルで乱暴に涙を拭き取る。シントさんはそれを見届けてから前に向き直った。ほんの少し前までは威圧感のあったその背中が、今は僕が一人じゃないことを教えてくれる。
「シントさん」
「何だ」
「ありがとうございます」
 紺色の瞳と、不思議と説得力のある、安心できる声。滅多に笑わないけど、シントさんは兄さんに似ている。確かに兄さんは僕を陥れたけれど、それまでの兄さんはとても優しくて、いつだって僕を助けてくれた。それがずっと嘘だったなんて、思いたくはない。

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