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看守と死刑囚03「昔の話(2)」

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 母さんの誕生日が近付いてきた日、僕達は誕生日をどう演出しようかと話し合っていた。プレゼントはお互いに一つずつ買って、ケーキも予約しておいて。そんなことを話しているとき、ふと兄さんが言った。
「そうだ、せっかくだから魔法を使って母さんを驚かせないか?」
「魔法? でも僕はあんまり得意じゃないし……」
「大丈夫だって。俺が考えたのを唱えるだけでいいからさ」
 兄さんが誕生日のために考えたのは、クラッカーを魔法で作るというものだった。僕は元々持っている魔力が少ないから実際に使うには補助具が必要だったけれど、それは誕生日の前日に兄さんが術者連盟から借りてきてくれた。
「じゃあフィア、俺が帰ってくるまでにマスターしとけよ」
「うん」
「間違っても家を燃やすなよ?」
「大丈夫だよ、多分」
 頼んだぞ、と笑って兄さんは家を出かけていった。母さんはまだ買い物に行っているはずだから、帰ってくる前に少し練習して術式を覚えておくつもりだった。
 術式を広げてざっと目を通す。どうせ僕には理解できないことがほとんどだけれど、紙吹雪なんかを飛ばすための起爆の式があるらしいことはかろうじて分かった。補助具を手首に付けて、一つずつ術式を唱えていく。細かく作られた術式だから、間違えることのないように確実に。唱えていくごとに魔力が集まっていくのが分かる。少し魔力が多すぎる気もしたけれど、補助具の性能が良すぎるだろうか。
 最後に一言、発動の式を唱える。魔力が集まり、形を成し、おかしい、と思った時にはもう手遅れだった。
「うわぁ!」
 僕を取り囲むように爆発が起こる。床板が天井が吹き飛び、炎が燃え上がる。熱い、と思った次の瞬間には炎が消えて、目前の床に暗い穴が口を開けた。吹き飛ばされた床板がその穴に引き込まれていく。地面すらも飲み込んで、穴は僕を避けるように広がっていく。その中心にいる僕は、ただ僕の唱えた魔法が全てを飲み込んでいく様を見ていることしかできなかった。兄さんの作った術式を唱えただけなのに、どうして――
「フィア!」
 遠くから声がする。母さんが、こちらへ向かって走っていた。
「母さん、駄目だ! 来ないで!」
 僕は精一杯叫んだけれど、その声が母さんに届く頃には、穴は広がりすぎていた。巨大な引力に負けて、母さんは引き込まれていく。
「母さん、母さん!」
 その手を掴もうと腕を伸ばす。だけど大きな魔法を発動させたせいか、思うように身体が動かない。僕がもがいている間にも、母さんは穴に吸い込まれていく。
「フィア……」
 飲み込まれる寸前に僕の名を呼んで、母さんが何かを言おうとする。
「母さん!」
 僕の手は届かなくて、母さんは消えてしまう。穴を覗いても、闇があるだけで何も見えない。穴に向かって母さんを呼んでも、返事は返ってこない。
「母さん、母さん母さん!」
 涙が溢れて、穴に吸い込まれていった。あとからあとから、涙がこぼれる。その間にも穴は僕を避けて広がっていく。
「フィア」
 また僕を呼ぶ声に顔を上げると、兄さんが穴から少し離れたところに立っていた。
「にい、さん……兄さん! どうしよう、母さんが!」
 立ち上がる僕を、兄さんは厳しい顔で睨み付ける。
「兄さん……?」
「お前が秘術を盗んだのか」
「え?」
 兄さんが何のことを言っているのか分からなかった。秘術って、昔の大戦で使われたっていう秘術のこと?
「お前は英雄の弟という立場を利用して術者連盟から秘術の一つを盗み出し、発動させたのだな」
「何、言ってるんだよ、兄さん」
「黙れ!」
 びくり、と身体が跳ねる。僕が何も言わなくなったことを確認して、兄さんは短い術式をいくつか唱える。突然の光に目を閉じて、開いたときにはすでに穴は消えていた。代わりに現れたのは大きく丸くえぐれた地面。母さんも、僕達の家も、何も残っていなかった。
「母さんまで犠牲にするなんて……」
「待ってよ兄さん! 僕はただ、」
 その時ようやく僕は、兄さんの口元が歪んでいることに気付いた。今までに見たことのない、恐怖を煽るような兄さんの笑顔。そしてやっと、理解した。僕は兄さんに陥れられたのだと。兄さんの向こうには、僕を睨み付ける街の人達がいる。
「来い」
 兄さんが一歩近付く。
「いや、だ……」
 弱々しく首を振り、僕は一歩後ろに下がる。
「知らなかった、秘術だなんて知らなかったんだ!」
「自分で盗み出しておいて、今さら何を言う」
「違う、兄さんが持ってきてくれたんじゃないか! 僕はただ、発動させただけだ!」
「そして母さんを殺したのか」
 喉が、上手く動かない。さきまで出ていた声が消えてしまう。秘術を盗み出したのは兄さんだろうか、他の誰かだろうか。それでも発動させたのは僕だ。家を消滅させ母さんを殺したのは、僕だ。
「ち、がう。僕は……」
 兄さんは僕を見下した顔で笑う。
「違う、違う……」
 何度も何度も首を振る。けれど、僕の言うことを信じてくれる人なんて一人だっていない。
「さあ、来い。お前は然るべきところで裁かれるべきだ」
 一気に距離を詰め、兄さんが僕の腕を掴む。僕には、それに抗う力はもう残っていなかった。

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