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雨狐05「友達じゃなくて」

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 コウはまだ同じ場所に座っていた。私の足音に気付いて顔を上げ、不思議そうな顔をする。
「戻ってきたの?」
「うん」
 傘を閉じ、賽銭箱とコウの間に座る。コウは何も言わず地面に視線を落としている。気まずい沈黙を破るために、横顔にそっと声をかける。
「ねえ、コウ」
 コウが顔を上げ、正面から視線がぶつかる。
「コウの話、聞きたい」
「僕の?」
 ゆっくりと頷く。コウは視線を逸らして少し考え、それからまた顔を上げた。
「気付いてるだろうけど、僕は人間じゃない」
 コウは泣きそうな顔で私を見つめる。話しながらも後悔しているような表情だった。
「妖怪と神様の中間みたいなもので、この神社からは出られない」
 私を見つめる瞳はいつものように真っ直ぐではなく、頼りなげに揺れている。
「化け狐って名前が一番近いと思う。晴れていると上手くこの格好になれなくて」
 私は無言でその瞳を見つめ返した。
「いつから存在しているかも、いつまで存在するかも分からない。だから、」
 一度言葉を途切れさせて、コウは視線を泳がせる。私とは目を合わせずに視線を落として、小さな、けれどよく通る声で言った。
「今までそうだったように、ミフユもいずれ僕の前からいなくなってしまう」
 視線を落としたまま、コウは呟く。
「やっぱり、話すべきじゃなかったかな」
「ううん。そんなことない」
 私は首を横に振る。次は、私が話さなくちゃ。言葉にするのにすごく勇気のいる思いだけど、ためらっているわけにはいかない。
「私、コウが好き」
 コウは弾かれたように顔を上げる。
「友達じゃなくて、恋人になろう」
「なに、言って」
「恋人は自然に忘れたりしない。大人になっても、コウに会いに来るよ。死んだら幽霊になってでも会いに行くから」
 一気に言って、いつも彼がするように、真っ直ぐに瞳を見つめる。
「恋人になって」
 コウは呆けた顔で私を見つめていて、すぐには返事がなかった。それでも視線を外さずにいると、コウの手が私の頬に伸びた。その時にやっと、私は自分が泣いていることに気付いた。
 ぎこちなく笑って、コウは突然私の肩に頭を預けた。
「こ、コウ?」
「なんで、こうなるのかなあ」
「え?」
 意味が掴めずに聞き返しても返事はない。いつもコウがしてくれるように、そっと髪を撫でてみる。
「駄目だって分かっているのに、君を僕のものにしたくなる」
「う、ん」
 曖昧な相槌を打って、また髪を撫でる。
「ミフユ」
 コウはまだ顔を上げようとしない。
「本当に、僕のものにしてしまっていいの?」
 消え入りそうな声で呟いて、コウはようやく顔を上げた。やけに恥ずかしくて、視線を逸らして何度も頷く。
「ずっと、一緒だからね」
 上手く出ない声で言うと、コウの腕がぎこちなく私の背にまわった。
「大好きだよ、ミフユ」
 静かな雨音の中で、私達は初めての口付けを交わした。




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