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はじめての約束02「なまえ」

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 父が伯爵夫人を採寸している間に彼女に絵本を読み聞かせることは、既に一つの習慣になっていた。今日も一冊読み終わって、絵本を閉じると彼女は丸い目で僕を見つめた。
「ジルは、なんでお嬢様ってよぶの?」
「え?」
 突然すぎる質問に答えられずにいると、彼女は頬をふくらませる。
「フィアスってよばなきゃやだ」
「……理由をお聞きしてもよろしいでしょうか」
 そんなことをすれば自分が伯爵に殺されかねないだとか、父が卒倒しそうだとか、そもそも呼び捨てにされればあなたは怒るべきだとか、言いたいことはいくらでもあったけどひとまずは理由を尋ねると、目の前の少女は不機嫌な表情を崩さずに口を開く。
「お兄様がね、ともだちはお嬢様ってよばないって言ったの」
「……なるほど」
 自分はいつの間に友人と呼べるような関係にまでなったのだろう。浮かんだ疑問を口にすれば彼女の機嫌を損ねる気がして、ひとまずは控えめな反論を返した。
「しかしフィアスお嬢様は伯爵令嬢ですし、僕が呼び捨てにする訳にはいきません」
「なんで?」
 率直に聞き返されて、思わず言葉に詰まる。
「じゃあ、フィーがはくしゃくれいじょうじゃなくなったらフィアスってよんでくれる?」
「そのようなことは起こらないかと……」
 あくまで控えめに否定したつもりなのだが、彼女は泣きそうな表情でうつむいてしまう。そのまま沈黙が続くと、まさか泣き出すのかと内心で冷や汗をかく。かといって伯爵令嬢を呼び捨てにしてはならないことくらいはわかっている。それを彼女が理解してくれるのが最善の方法だけど、どう説得しても無駄のような予感もする。僕は半ば混乱した頭で、苦肉の策を提示した。
「では、二人きりの時だけ……というのはどうでしょう」
 彼女は勢いよく顔を上げた。先ほどまであったはずの泣き出しそうな気配は、どこかへかき消えてしまっている。その様子に僕は安堵のため息をつこうとして、
「やったー!」
 勢いよく抱きついてきた彼女に、鼻と口を塞がれた。


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