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誕生日の約束09「約束の婚約(2)」

第一話から読む


「冗談だと思っていたわ。だって、ジルと婚約、なんて」
 フィアスはばつの悪そうな顔で沈黙した。ポットを机に置き、逆さにした砂時計をその隣に置く。砂の落ちる音だけが微かに響いた。
 砂が落ちきるまで待って、ジルは口を開く。
「僕は本気ですよ」
「分かっているわ」
 カオフマン家の長男として、フィアスとの婚姻は願ってもない良縁だろう。彼女の言わんとしていることを感じ取って、ジルは再び苦笑を浮かべた。手を伸ばしてフィアスのカップを取り、紅茶を注ぐ。
「あなたが伯爵令嬢だからということもありますが、一番の理由は他にありますよ」
「他に理由なんてあるの? 私がフィアス・ファウ・アイゲンズィンだからって理由の他に」
「そんなものはただのおまけですよ」
 手品の種を探すような視線がジルに向けられる。紅茶のカップを差し出し、ソファに座ってからゆっくりと言葉を紡ぐ。
「あなたが好きだからです」
 何の装飾もされていない言葉。フィアスの大きな瞳が見開かれる。何か言いたげに開かれた唇は、結局無言のまま閉じられた。
「一生あなたの隣にいたい。カオフマン家の人間としてではなく、一人の男として」
「……な」
 空気を求める魚のように、小さな唇がぱくぱくと開閉される。ジルはその様子にも笑み一つ浮かべず、無言で彼女の返事を待った。
「冗談でしょ、だって、ジルは……」
「本当ですよ」
 即座に返すと、フィアスは顔を赤くして俯いてしまう。ジルは立ち上がり、彼女の手を取った。弾かれたように上げた顔が、掴まれた手をじっと見つめる。
「フィアス、僕と結婚してください」
 静寂に満ちた部屋に、その言葉だけが響いた。
 泣きそうな表情で見上げる少女の瞳を見つめ返す。彼女はまた顔を伏せ、かろうじて聞き取れる声で呟いた。
「そこまで言うなら、婚約してあげてもいいわよ」
 こんな場面でも相変わらずの言い様に、ジルは思わず微笑を浮かべる。
「ありがとうございます」
「婚約はしてあげるけど、私はジルが好きじゃないから。知らなかったもの、そんなの、ジルが考えてたなんて……」
 掴んでいる手が頼りなく握り返される。混乱しているのか意地を張っているのか、彼女の言葉は要領を得ない。それでも大体の意味を理解して、ジルは白い手の甲に口付けを落とした。
「好きになってもらえるよう努力しますよ」
 慣れたはずの行為にフィアスは耳まで赤く染めて、「精々頑張りなさい」と呟いた。


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