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誕生日の約束08「約束の婚約(1)」

第一話から読む


 カオフマン家の屋敷には応接間が三つある。どの部屋も高価な家具が置かれ、計算され尽くした内装が客を迎える。しかしそれらの部屋の内の一つは、突然やってくるアイゲンズィン家の令嬢のための部屋となりつつあった。
 いつの間に作っていたのか彼女の好きそうなケーキを使用人から受け取ったジルは、音を立てずに皿を机に置きフィアスの正面に座った。彼女はカップを唇に当てたまま、この上ないほど顔をしかめている。
「今年最初のベリーです。お好きでしたよね」
 当たり障りのない話題でひとまずケーキを勧めると、フィアスは仏頂面のままフォークを手に取った。いささか乱暴な手つきで切り分け、味を問うのがためらわれるような表情で咀嚼する。
 この調子では何を言っても彼女の機嫌が良くなることは無さそうだ。心中で溜め息をついて、ジルは口を開いた。
「ヴェステン公爵との縁談は無しになったそうですね」
 フォークと皿がぶつかり、甲高い音を立てた。
 彼の言葉が聞こえなかったかのように、フィアスは次の一口を口に運ぶ。それを飲み込んでしまった後にも返事が返ってくる気配はない。
「……フィアス」
「私は悪くないわ」
 名前を呼ぶと、ようやく反応があった。ケーキを消費しながら、感情を抑えた声で言葉を続ける。
「ちゃんと礼儀正しくしたのよ。馴れ馴れしくもされたけれど、ちゃんと我慢して嫌な素振りも見せなかったもの。それなのに、それなのに……私の荷物に何が入っていたと思う?」
 フォークを置いた彼女の手は微かに震えている。深緑の瞳がジルを睨み付けた。
「何が入っていたんですか?」
「下着よ。……しかも、娼婦が着るような!」
 細い腕がソファの肘掛けに叩き付けられる。
「私はあんなもの持っていなかったのに、向こうの侍女に見られたのよ! もう、最低! 誰があんなもの入れたのよ!」
 感情を爆発させながら、繰り返しソファを殴る。フィアスの細腕では布が破れて中身が出ることはないが、あまり叩き続ければ中の羽毛が潰れてしまうかも知れない。仕立て直すことになるだろうかとジルが考え始めた頃、ようやくフィアスは動きを止めた。肩で息をして、背もたれに身を預ける。
「これじゃ、何のために西部まで行ったのか分からないわよ……」
 ぽつりと呟いて、顔を伏せる。
「その程度で婚約を取りやめるような方と婚約しなくてよかったのではないでしょうか」
 平坦な声で慰めると、フィアスは顔は上げずに非難めいた視線をジルに送った。
「それに、ヴェステン公爵には少々特殊な性癖があるという噂ですし」
「特殊な性癖?」
「同じ年頃の女性よりも年下の少女が好きだとか」
「何か問題なの?」
 首を傾げて尋ねる少女に、ジルは一瞬言葉を無くした。しかしすぐに思い直して説明を付け足す。
「もしそんな人と結婚すれば、あなたが大人になったときには別の少女の所へ行かれてしまいますよ」
「それは困るわ」
 ひとまず理解はしてくれたらしい。冷めてしまった紅茶を淹れ直そうと、ジルは立ち上がってワゴンの上のポットに手をかける。
「どうしたらいいのかしら」
 誰にともなく呟きが漏れる。ジルは無言のまま茶葉の缶を開けた。
「変な噂が広まったらもう結婚できないわ」
「その心配はないかと」
 フィアスは不審そうに眉をひそめ、首を傾げる。訝しむ視線を苦笑で受け止めながら、茶葉を入れたポットにお湯を注ぐ。
「もう忘れてしまいましたか? ほんの十日ほど前のことでしょう」
「十日前?」
 思い出そうと顎に手を当てたフィアスは、すぐに思い当たったのか「あ」と声を上げた。
「やっと思い出していただけましたか」


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