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誕生日の約束04「仮縫いのドレス」

第一話から読む


 まだ仮縫いの残っているドレスを身にまとい、フィアスはその場でくるりと回る。表情を見る限り母親は仕上がりに満足しているらしい。フィアスもつられて笑みを浮かべた。
「フィアスお嬢様、苦しい所などはございませんか?」
「ええ、大丈夫よ」
 ジルの父であるカオフマン男爵に笑顔を向ける。
「もう少しウエストは絞った方が良いわ」
「かしこまりました」
 横から飛んできた声にカオフマンが即座に答える。フィアスは思わず声を上げた。
「お母様、これ以上絞ったら潰れちゃうわ」
「慣れれば平気よ」
 フィアスの反論を一蹴して、母親は「お願いね」と念を押す。カオフマンは悩んだ顔をしながらも、衝立の向こうへ声をかけた。
「ジルヴェスター、仕立て表とペンを」
「はい」
 衝立の向こうからジルが現れ、父親に紙とペンを渡す。彼はフィアスを見て、にこりと笑った。
「とてもお似合いですよ、フィアスお嬢様」
 貼り付けたような笑顔に不満を覚えながら、フィアスは表面上はにこやかに「ありがとう」と返した。母親の方を振り返ると、仕立て表を覗き込みながら未だにウエストの話をしている。
「私、誕生日の前に絞りすぎで死んでしまうかもしれない」
 溜め息と共にぽつりと呟くと、ジルのわざとらしい笑顔が苦笑へと変わる。
「このくらいで死にはしませんよ」
「だってこのドレス、今ぴったりなのよ。これ以上細くできるわけないじゃない」
「それが今の流行です」
 フィアスはまた溜め息をつく。それと重なるように部屋の扉がノックされた。二人は衝立の向こうにあるはずの扉へと視線を向ける。
「お父様かしら?」
 侍女が扉を開く音の後に、フィアスの耳に聞き慣れた声が届いた。
「ただいま。フィアスはいるかな?」
「お兄様!」
 仮縫いのドレスをまとったまま、衝立の向こうへ飛びだして兄に飛びつく。彼は笑顔でそれを受け止めた。続いて現れたジルが深く礼をすると、それに会釈を返す。
「お帰りなさい、ヘクトお兄様!」
「ただいま、フィアス」
 頭を撫でられて満足すると、フィアスは兄から一歩離れる。ドレスの裾を持って礼をするように広げてみせた。
「誕生日に着るの。似合うかしら?」
「とても似合ってる。可愛いよ」
 再び頭を撫でられ、フィアスは微笑を浮かべる。しかし先程の母親の言葉を思い出して、少し眉をしかめた。
「でもお母様はもっと絞れっていうの。もう十分ぴったりなのに」
「ああ」
 納得したような声を出す兄を見上げて、フィアスは不機嫌な表情を浮かべる。
「仕方ないよ。その日はヴェステン公爵にお会いするんだろう? 目一杯着飾らないとね」
「ヴェステン公爵?」
 フィアスが首を傾げると、ヘクトもつられたように首を傾げた。聞き覚えのある名前を思い出そうと、フィアスは必死で記憶を探る。
「確か西側の……えーっと、すごい人よ」
「確かにすごい人かも知れないけどね」
 妹の曖昧すぎる記憶に苦笑しながら、ヘクトは言葉を続ける。
「マーノルド・ヴェステン公爵。ヴェステン家の当主だよ。西側では最もこの国に影響力があるんじゃないかな」
「そんなにすごい人が私の誕生日に来てくださるの?」
 フィアスが尋ねると、兄は不思議そうな顔で彼女を見た。顔を上げ、母親に声をかける。
「母上、まだフィアスに話していないのですか?」
「話そうとしたら遊びに出てしまったのよ」
「ああ、なるほど」
 妹がしばしばカオフマンの家に遊びに行っていることを思い出して、ヘクトはちらりとジルを見ると苦笑した。頭に疑問符を浮かべているフィアスへ視線を戻す。
「お兄様、どういうことなの?」
 服の裾を掴んで引くフィアスの頭を撫でてから、ヘクトは口を開いた。
「フィアス。お前はヴェステン公爵の婚約者になるかも知れないんだよ」
 突然の事実を告げる言葉にフィアスは目を丸くした。しかし兄の言葉に最も驚いているのはフィアスではなく、開いた口が塞がっていないカオフマンらしい。息子とフィアスが結婚すると思っていたのだろうか。そんなことを頭の隅で考えながら、フィアスは「もっと早く言ってくれればいいのに」とだけ返した。


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